建物にはたらく力と固有周期

「固有周期」という言葉をご存じですか?

地震が起きたときに建物がどのような揺れ方をするか、つまり、建物にどの程度の力(地震力)がはたらくかは、地震の揺れの大きさだけでなく、建物によっても大きく変わります。
建物が建っている場所の地面の揺れが同じでも、建物によって揺れ方が異なるのです。

そのことは、地震の被害を受けた町の映像などでお気づきになっているかと思います。隣り合って建っている建物でも、被害の程度は大きく異なるということがありますね。

それでは、どのような建物に、より強い力がはたらくのでしょうか。その決め手になるのが、建物の「固有周期」です。

固有周期とは?

「固有周期」とは、建物が一方に揺れて反対側に戻ってくるまでの時間のことです。

建物を振り子にたとえて考えてみると、わかりやすいかもしれません。
振り子を揺らすと、片側に揺れ、戻ってきます。そのときの、行って戻ってくるまでの時間が固有周期です。

振り子の図

固有周期が長いほど、ゆっくり揺れる

この固有周期が長いほど建物にはたらく力は小さくなり、ゆっくり揺れます。
反対に、固有周期が短いほど建物にはたらく力は大きくなり、小刻みに揺れます。

それでは、固有周期はどのような条件で決まるのでしょうか?
それは、建物の質量・剛性(変形のしやすさ)です。

建物の固有周期

図5-1のように建物をモデル化すると、建物の固有周期は下式で表されます。

\[T = 2\pi\sqrt{m/k}\]\(T\):固有周期  \(m\):質量  \(k\):剛性

図5-1 1層モデル

この式から、建物の質量(重量)が大きくなると固有周期は長くなり、剛性が大きくなると固有周期は短くなりことがわかります。ここでいう「剛性」とは、建物の変形のしやすさで図5-2のようにあらわされます。

つまり、「剛性が高い」というのは建物が変形しにくいこと、「剛性が低い」というのは建物が変形しやすいことです。

図5-2 剛性

ただし、図5-1・図5-2は建物を一つの質量を持つ点(質点といいます)に置き換えています。

1階建ての建物であればこのモデルによく対応しますが、事務所ビルのように何層にもなる場合、その質点は各階に分散して置いた方がうまく建物を表現できます(図5-3)。

このような何層にもなる建物でも等価な1質点のモデルに置き換え、固有周期を計算することが可能です。その方法はここでは説明しませんが、先ほど述べた質量が大きいほど固有周期が長くなり、剛性が大きくなるほど固有周期が短くなるという性質は変わりません。

なお、図の5-3のように何層にもなる建物の固有周期の計算には、時間と手間がかかります。そのため建築基準法では比較的多く建てられる日本の一般的建築物を対象に建物の高さと関連付けた簡略式が示されています。

鉄筋コンクリート造
\(T = 0.02h\)
鉄骨造
\(T = 0.03h\)

(\(h\) :建物の高さ)

木造の住宅の場合にはそのような提案式があるわけではありませんが大体0.5秒前後と思ってください。 上の式を適用すると高さ200mの鉄骨造の超高層ビルは200×0.03=6.0秒となります。

図5-3 多層モデル

実例で確認

それではここで、実際に起きた地震を例にして固有周期による揺れ方の違いを見ていきましょう。

建物の質量と剛性がわかるとその建物の固有周期だけでなく、地震が作用した時に建物にはたらく力を時系列で計算することができます。これを時刻歴応答解析といいます。

下の図は、過去のいろいろな地震で観測された地震波形に対して、それぞれの質量と剛性を持つ建物の時刻歴応答解析を行い、はたらく力の最大値(最大加速度)をもとめ、固有周期ごとに整理したものです。横軸が建物の固有周期、縦軸が建物にはたらく力(応答加速度)を表しています。

ここで「応答加速度」を建物にはたらく力と同義としているのは、建物にはたらく力(=慣性力)は質量と加速度のかけ算で求められるので、この表から得られた加速度に建物の質量をかけると建物にはたらく力が得られます。ちなみに、「応答加速度」の「応答」とは、地震などの外力によって建物に生じる力、変形などを示す言葉です。

出典:気象庁ホームページ ※一部加工

この図をみると、同じ地震でも、建物の固有周期によって建物にはたらく力に大きな差があることがわかります。

また個々の地震ごとに建物にはたらく力には大きな差がありますが、全体の傾向として、建物の固有周期が長いほど建物にはたらく力は小さくなることがわかっていただけると思います。

図の黒線は、2003年5月26日に起きた宮城県沖地震の場合のグラフです。この地震では、建物にはたらく力が最も大きくなるのは固有周期が0.3秒程度の建物で、4000cm/sec2近い非常に大きな値になります。ただし、これより固有周期が長い建物では急激に値が下がっています。

次に、2階建ての木造家屋の場合、どの程度の力がはたらくのかグラフで確認してみましょう。2階建ての木造家屋の固有周期はおおむね0.5秒程度と考えられますので、横軸の目盛りが0.5秒のときの数値を確認してみてください。

宮城県沖地震(黒線)は大きな地震ですが、2階建ての木造家屋にはたらいた力の大きさに限って言えば、ほかの地震ほど大きくはないことがわかります。

以上で建物にはたらく力が建物の固有周期によって大きく変わることをわかっていただけたかと思います。今後は何故このように建物にはたらく力が固有周期によって変わるのかについて説明したいと考えています。

監修

慶伊 道夫
1948年9月2日生まれ 北海道室蘭市出身 1971年 京都大学工学部建築学科卒業/1973年 京都大学大学院工学研究科建築学専攻修了 構造設計一級建築士 技術士(建設部門)

日建設計にて東京スカイツリーをはじめ多数の建築物の設計に携わり、現在は住友ゴム工業株式会社 ハイブリッド事業本部 制振ビジネスチーム顧問を務める。