建築基準法における耐震規定の考え方

これまでは地震と建物にはたらく地震力の関係についてお話ししてきましたが、今回は建築基準法に示される耐震規定の基本的な考え方についてご紹介します。

建築基準法

建築基準法は、日本に建てられる建築物が満たすべき条件を規定した法律です。建物を新たに建てる場合には、この規定を満たしているかどうか、各都道府県の建築主事や国土交通大臣の審査を必ず受けることになります。

この法律は建築物が満たすべき性能について多く規定していますが、その中には、これからお話しする耐震性能に関する規定も含まれています。
ここからは、この耐震規定について「建物にはたらく地震力」と「建物に求められる耐震性能」という2つの観点から簡単にご紹介します。

建物にはたらく地震力

図8-1は、建築基準法で示している地震力と、過去に起きた地震のいくつかを比較したものです。

図8-1
出典:一般社団法人 日本建築構造技術者協会
関西支部「伝統的な軸組構法を主体とした木造住宅・建築物の耐震性能評価・耐震補強マニュアル(第2版)」

この図は、第5回のコラムで説明した、建物の固有周期(横軸)と建物にはたらく加速度(地震力)の関係を示した図と同じ種類の図です。

その図の上に、建築基準法で定められた大地震のときの地震力が3本の黒い線で重ねられています。

3本あるのは、建物が建つ地盤の差によって、はたらく地震力を区別しているためです。第3種地盤はいわゆる「軟弱地盤」と称される地盤であり、建物にはたらく力も大きくなります。

また、ピンクの実線は兵庫県南部地震において神戸気象台で観測されたもので、建築基準法で定められた大地震のレベルをかなり上回っていることがわかります。(なお、この地震動は震度7相当と考えられています)

建物に求められる耐震性能

建築基準法では、このように建物にはたらく地震力を規定すると同時に、建物の安全性がどの程度であるべきかについても規定しています。それをまとめると、下記のようになります。

想定される地震の規模 想定される震度※ 求められる建物の安全性
稀な地震(中小地震) 震度5弱 建物の主要な部分に損傷が生じない(損傷限界)
極めて稀な地震(大地震) 震度5強~6強 建物は倒壊しない(安全限界)

※「想定される震度」:筆者がわかりやすくするため付記したもので、建築基準法にこのような記載はありません。

「倒壊しない」とは一見当たり前のように思えますが、実はかなり深い意味を含んでいます。

すなわち、倒壊はしないが、建物に多少の損傷が生じることは認めるということです。言葉を変えると、その地震の後にその建物に住み続けられるか否かは保証しないということを意味します。

おそらく、この点に関して誤解されている方も多いのではないでしょうか。 もちろん、大地震の後も損傷がないことが望ましいのですが、それが簡単にできないくらい日本で発生する地震の力が大きいということでもあります。

このような考え方に基づいて建築基準法の耐震規定が施行されたのは1981年ですが、1995年に兵庫県南部地震が発生しました。地震後の調査結果では、1981年以後の建築基準法で設計された建物の「倒壊」は非常に少なかったことがわかっています。(出典:(財)日本建築センター「平成7年阪神・淡路大震災 建築震災調査委員会最終報告書」)

この原因としてはいくつかの理由が考えられていますが、いずれにしろ、建物がこの法律に基づいて適正に設計・施工されていれば、建物は容易には倒壊しないということが言えるかと思います。

監修

慶伊 道夫
1948年9月2日生まれ 北海道室蘭市出身 1971年 京都大学工学部建築学科卒業/1973年 京都大学大学院工学研究科建築学専攻修了 構造設計一級建築士 技術士(建設部門)

日建設計にて東京スカイツリーをはじめ多数の建築物の設計に携わり、現在は住友ゴム工業株式会社 ハイブリッド事業本部 制振ビジネスチーム顧問を務める。