大地震時に建物に生じる損傷
第8回のコラムで建築基準法の耐震規定について説明しましたが、その中で、大地震時には建物にある程度の損傷が生じることを許容していると述べました。 今回は、その損傷について説明します。
層間変形とは
まず、地震における建物の変形を表す言葉として「層間変形」というものがあります。これは図9-1に示すように、建物の、ある階(層)の床と下の階の床の変形の差のことです。
層間変形の大きさは、その建物を継続して使用し続けることができるかどうかを判断する材料となります。
残留変形とは
大地震により建物に損傷が生じると、この変形が大きくなって元に戻らなくなります。このような変形を「残留変形」といいますが、そこに至るまでの層間変形の大きさは、木造、鉄筋コンクリート造、鉄骨造など、建物の構造によって異なります。
変形が戻らない原因としては、木造の柱や梁の仕口がめり込んだり、壁に亀裂(ひび割れ)が生じたり、鉄筋や鉄骨が降伏※したりするといったことなどが挙げられます。
※鋼材に、ある一定以上の力が働くことにより、元の状態に戻らないこと。 ただ、この状態になっても建物はまだかなり余力を持っていることが多いので、直ちに建て替えが必要とは限りません。
耐震化のための構造技術
大地震による被害をできるだけ小さくするために、現在日本では、建物に必要な耐震性能を確保する構造技術が主に3つ考えられています。
出典:一般社団法人日本建築構造技術者協会パンフレット「安心できる建物をつくるために」P.5
この3つについて簡単に説明します。
1.耐震構造
建物の骨組み(壁も含む)を強化して必要な耐震性能を確保するものですが、大地震に対してはある程度の損傷を覚悟することになります。 無損傷というのも理論上不可能ではありませんが、非常に多くの壁(耐震壁)などが必要になります。そのため、建築計画上の利便性、快適性、経済性を犠牲にすることが多いといえます。 さらに、建物内部の床などの揺れ(加速度)が大きくなることから、家具や備品の転倒・破損などの可能性があります。
2.制振構造
地震だけを目的にする場合、「制震構造」という名称を使用する場合もあります。建物内に制振部材を配置して地震エネルギーの一部を吸収し、構造体の損傷を軽減または防止するものです。 制振部材としては、鋼材系、粘性系、粘弾性系など種々の装置が開発されています。
3.免震構造
建物の最下部に免震装置、減衰装置を配置して、地震の揺れを上部に伝えない構造技術です。 この方法は、上の2つに比べて少しお金がかかりますが、地震への対策としてはもっとも優れたものです。大地震でも建物に損傷を与えることなく、家具、備品などの転倒・破損も生じにくいといえます。 次回は、この3つの技術についてもう少し詳しく説明します。